プリズム!
雅耶は、夏樹のその震える細い両肩を優しく掴むと、言い聞かせるように優しく声を掛けた。

「お前がどれだけ頑張って来たか、俺は知ってる。焦ることなんてないんだ。お前はお前のままで良いんだ」

だが、夏樹は納得していない様子で再び首を横に振ると、涙に濡れた瞳をこちらに向けて言った。

「だって、オレ…最低なんだっ。ふゆちゃんが生きていてくれて…ふゆちゃんに会えて、本当に…嬉しかったのにっ。それなのに…。成蘭(ここ)に来て思ったんだっ…。オレ…『冬樹』でいた時の方が良かったって…。冬樹で…いたかったって…。本当は、ずっと…成蘭にいたかった…っ…」

「…夏樹…」


「ずっと…雅耶の隣にいたかった…。ずっと…一緒に、笑っていたかったよ…」


夏樹の口から発せられた、その言葉に。

雅耶は驚きの余り大きく目を見開いたまま、泣き濡れている夏樹の瞳を見つめていた。


『冬樹でいたかった』

『ずっと、成蘭にいたかった』


(そんなことを夏樹が思っていただなんて、知らなかった…)

『冬樹』でいた頃は、半ば諦めたような瞳をしていたから…。

実際に冬樹が生きていて、無事夏樹に戻れたことは本当に予想外ではあったかも知れないが、心から喜んでいるのだと思っていた。

もう、(よそお)う必要がないのだ。

もう秘密を抱え込む必要がなくなったのだから、その分気持ちも軽くなったのだろうと勝手に解釈していた。

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