プリズム!
「冬樹っ」


夏樹のアパートの部屋の前で一人佇んでいた冬樹は、こちらに軽く手を上げてアパートの階段を昇ってくる雅耶の姿を見つけると、僅かに笑顔を浮かべた。

「久し振りだね、雅耶」

「おう。元気そうで何より」

二人は挨拶を交わすと、お互いの立ち位置を入れ替えるように移動した。


「ごめんね、雅耶。会ったばかりで本当に申し訳ないんだけど…。じゃあ、あとはよろしくね」

冬樹が声を落として控えめに言うと、雅耶は「任せとけって」と頷いた。

「あと、これ…なっちゃん家の鍵ね。もしも、帰る時なっちゃんが眠っていたら…」

「ああ。施錠(せじょう)して、この新聞受けに戻しておけばいいんだよな?」

先程電話で話した内容を反復しながら、それを受け取る。

「…本当に良いのか?寝てる間に行っちゃって…」

後ろ髪を引かれているのが見て取れる冬樹の様子に、雅耶が(たず)ねる。

だが、冬樹はドアを見つめながら小さく頷いた。

「うん、いいんだ。なっちゃんもそのつもりでいるし、大丈夫だよ。少し話も出来たしね」

「そっか…」

「うん。じゃあ…またね。雅耶も今度ゆっくり…」

「そうだな。また…」


そうして冬樹は軽く手を上げると、背を向けて歩き出した。

その冬樹の何処か寂しげな背中に、雅耶は咄嗟に思わず名を呼んで呼び止めていた。

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