プリズム!
雅耶は、眠っている夏樹に視線を向けた。

僅かに頬に掛かった髪をそっと除ける。

未だ目を覚ます様子はない、夏樹。

指先を掠めたそのすべらかな肌は、やはり普段とは違う熱さを持っていた。


(心配なんだよ…。お前のことが…)


愛おしくて愛おしくて、堪らない存在。

出来ることなら、いつだって自分の近くに置いておきたいと思う。

だが、思い出が一杯のあの家に一人で住むことによって夏樹が余計な寂しさを感じてしまうのなら、それこそ無理などさせたくはなくて。

(…複雑だよな。本当なら、冬樹がこっちに戻って来て、兄妹仲良くあの家に住むのが一番ベストだと思うんだけどな…)


先程の別れ際の冬樹を思い出す。

(あの様子だと、こっちに戻って来る気はないのかもな…)

『今は…雅耶がなっちゃんの隣にいてくれるでしょう?』

そう言って微笑んでいた冬樹。

一見、自分のことを認めてくれている感じではある。

だが…。

(夏樹には絶対、聞かせられない言葉だよな…。冬樹のヤツ…。俺と冬樹とでは立ち位置が全然違うのに…)


冬樹の残したあの一言が『昔とは違うんだ』と切り捨てられてしまったような感じがして、雅耶の心に小さな傷を残していた。

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