プリズム!
ぼんやりと窓際を眺めている夏樹の額の上に乗せたタオルを雅耶はそっと取り上げると、今度は優しく自らの掌をゆっくりと当ててくる。

(雅耶の手…冷たくて気持ちいい…)

僅かに目を細めて大人しくしている夏樹を見下ろして、雅耶が口を開いた。

「まだ、高そうだな…。とりあえず熱計ってみないか?冬樹に言われて体温計持ってきたんだ」

その言葉に。夏樹は、やっと今の状況を思い出して雅耶に視線を合わせた。

「そうだ、ふゆちゃんは…」

「冬樹なら…昼過ぎに帰ったよ」

こちらを気遣うような優しい目で雅耶が言った。

「…そっか…。もしかして、雅耶…ふゆちゃんと会ったの?」

「ああ。俺は、冬樹が出て行く時に入れ替わりで来たんだ。学校帰りにお前に電話したら冬樹が出てさ。お前が熱出してるって聞いて…。具合の悪いお前を一人置いて出るのは気が引けるから、俺が来るのを待ってるってアイツが言ってさ…」

「…そう、だったんだ…」


(折角顔出してくれたのに、余計な気を…使わせちゃったかな…)

優しい兄の心遣いに温かい気持ちになりながらも、別れの挨拶も出来なかった自分自身に不甲斐(ふがい)なさを感じた。

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