プリズム!
夏樹は驚いたように雅耶を見上げていた。

思いのほか真剣な雅耶の顔がそこにはあったから。

夏樹は戸惑うように、僅かに瞳を揺らした。


「私だって…ずっと忘れなかった。でも、あの事故があって…。もう、その約束は叶うことがないんだって諦めてたんだ。それに、海が怖いと思ったのは…本当だよ…」

思わず泣きそうになって、それを誤魔化すように視線をポスターへと移した。

「夏に海水浴に行った時、子どもを助けに海に入って溺れたよね…。あの時…最初は夢中だった。あの子を助けなきゃって思って必死だったんだ。でも、雅耶にあの子を託した後、不意に自分が海の中にいることを自覚したら、動けなくなって…」


怖かった。


夢で何度も見た。

お父さん、お母さん。そしてふゆちゃんが、自分に助けを求めてきて…海の底へと引き()り込まれる…悪夢…。


「本当はね、あの時…それもいいかなって思ったんだ。これで皆と同じ所へ行くんだって…。雅耶は怒るかもしれないけど…」

そっと雅耶へ視線を戻すと。

「当たり前だろ?」

真面目な顔でギロリと睨まれて、夏樹は困ったように小さく笑った。
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