プリズム!
大きな瞳を見開いて言葉を失っている夏樹の横顔を、雅耶はそっと見つめた。

薄暗い中でも分かる程にキラキラと光を映しているその潤んだ瞳と。

きっと無意識なのであろう、自分の腕にしがみ付くようにして、その目の前の光景に心奪われている夏樹の様子に。

雅耶は満足気に微笑むと、ゆっくりと口を開いた。

「俺さ、昔…両親にここへ連れて来て貰ったことがあるんだ。夏樹達がいなくなってからだから…小学校三年生位の時だったと思う」

静かに話し出した雅耶の顔を、夏樹はそっと見上げてくる。

「その時、すっげぇ感動してさ…。嬉しかった反面、すっげぇ悲しくなったんだ」

「…悲しく…?何で…?」

戸惑うように見上げて来る夏樹に、その当時を思い出して雅耶は少しだけ眉を下げた。

「これを夏樹に見せたかったなって…。きっと夏樹に見せたら、すごく喜ぶだろうなって思ったんだ。だけど、それはもう二度と叶わない…。そう思ったら悲しくて堪らなくなった…」

「…雅耶…」

「堪らなくなって、思わず泣き出して…親を困らせた記憶があるよ。今思うと、ちょっと困った子どもだよな」

苦笑を浮かべて話す雅耶を、夏樹が泣きそうな顔で見上げていた。


きっと無事だと信じていたかったけれど、月日が経てば経つ程に、幼いながらにも嫌でも感じてしまう喪失感。

希望を持っているだけでは何も変わらないと…現実を思い知らされる日々。

そして、それらは…諦めから絶望感へと形を変えていった。


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