プリズム!
無表情で前を向いたまま話す夏樹からは、感情を読み取ることが出来ない。

その横顔は、相変わらず凛としていて綺麗だったけれど、そんな風に感情を隠してしまうと、再会したばかりの頃の入学当時の『冬樹』を思い起こさせる。

「別に気を使ってる訳じゃないよ。ただ、俺がお前と帰りたかっただけなんだけど…」

「………」

夏樹は前を向いたままだ。

「今日は、まさか薫先輩に会うなんて思わなくてさ…。ついつい懐かしくて話し込んじゃったけど…」

「………」

「薫先輩とずっと話してたこと、…怒ってるのか?」

表情を窺うように覗き込むと、夏樹は足を止めた。

「…そんなの、怒る理由にもならないだろ?懐かしい先輩と会って、会話が弾むのは当然のことだ。何もおかしくない…。それをオレが怒ってたってしょうがないだろう?」


『言葉遣いが戻ってる』…というツッコミが一瞬頭を()ぎったが、戸惑うように見上げてくる夏樹の視線に、雅耶は言葉を飲み込んだ。

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