姉妹ものがたり
「好きなの取ってね」
能天気な弥生の笑顔を見て、皐月は盛大にため息を付きながら両手で箱を押し返した。
「あのね、さっきから何度も言ってるけど、あたしはもうすぐテストなの!今追い込みの最中なの!ここが頑張り所なの!!」
「おれが覚えてる限りでは、一回しか言ってないけどな」
必死で弥生に訴えている最中、脇から飛んできた余計な一言に、皐月は声の主を鋭く睨みつけた。
「ちょっと慎也、あんたはなに呑気に人ん家でおやつ食べてんのよ!」
「ここはお前の家じゃないだろ。あっ弥生さん!おれ的にはいちごがオススメです」
「あのね、ここはあたしのお姉ちゃんの家なんだから、あたしにとっては自分の家も同然…って、聞けこら!!」
弥生と会話することに夢中で、皐月の話など全く聞いていない同級生の三上 慎也(みかみ しんや)を怒鳴りつけていると、いつの間にかテーブルの上に広げていた教科書やらノートやらは隅に押しやられ、皿に取り分けられたシュークリームに占拠されていた。