姉妹ものがたり
不本意だが仕方なく、棗に言われるがままに店内を回り、並べられたパンを眺める。
パン屋であることはわかって来店しているが、今までこんなにじっくりと店内を見たことはなかった。
「どう?中々美味しそうでしょ」
「それ、自分で言うんですか」
「皐月ちゃんが言ってくれないからさ」
楽しそうに隣に並んで、頼んでもいないのにパンの説明を始める棗をサラッと流して、待ち人はまだか…と壁にかかった時計や、入口の扉を忙しなく眺める。
「さーつーきーちゃん。そんなに菜穂が待ち遠しい?」
ズイっと視界に割り込むように入り込んできた棗に、堪える間もなく眉間に皺が寄る。
「そりゃ、用があるのは、棗さんじゃなくて菜穂さんですから」
ぶっきらぼうに呟き返して、さりげなく棗と距離を取る。
「皐月ちゃんは相変わらず、全然おれに懐いてくれないね」
わざとらしく悲しげな声を出す棗は、売れたことで出来た不自然な隙間を埋めるように、パンを並べ替えていく。
さりげなく視線を送ってみれば、心を込めて作っているというのは本当なようで、パンを扱う動作が、傍から見てもわかるほどに愛おしげだった。