たとえば呼吸をするように
気が向いたらね、なんて言ったら神経を逆撫でしてしまうのは、実証済み。

救いのチャイムが鳴り、私は漸く解放された。


丁度門を通っていた同じクラスの遠藤沙美(エンドウサミ)と共に、校舎を目指す。


「今日もすごかったね、怒鳴り声」

「ねー。ただでさえ暑いのに、やめてほしいよ」

「あんたが金髪やめれば済む話じゃない」

「まぁ、そうなんだけど」


言葉を濁す私に、沙美は小さく笑う。


「恋する乙女の行動力はすごいよねー」

「もう。やめてよ、沙美」


完全にからかい口調の沙美。会話の主導権を握られないようにむくれてみたけど、


「まーた怒られてやんの」


と、沙美のからかいに拍車をかける声が頭上から聞こえてきた。

その瞬間、どきりと胸が跳ねる。

声のする方を見上げると、窓から身を乗り出して笑うひとりの男子生徒。


「土屋……!」


ワックスで軽く整えている茶色がかった髪に、笑うと姿を覗かせる八重歯。

筋の通った鼻筋にぱっちり二重とくれば、女の子に人気がないはずがない。


「早く来ねーとチャイム鳴んぞー」

「えー。先生来るの遅いし、大丈夫でしょー」

「バカ、今日代担よ!」


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