たとえば呼吸をするように
頬を伝う汗を拭いながら、口を大きく開けて笑う土屋を見る。

私の、大好きな笑顔を。


「しっかし……お前も懲りねえなぁ。黒染めしたら引き留められることもなくなって、走らずに済むのに」

「それは……そう、だけど」


あんたが言うな。内心毒づいた私を知ってか知らずか、


「まぁ俺は……お前のこと見つけやすいから、そのままでいてほしいけど」


私が一番望む言葉をくれた。

それだけで幸せになれちゃう私は、やっぱり沙美の言う通り、恋する乙女なのかも。


「心配しなくても、黒に戻す予定はないよ」

「ははっ。呼び出し覚悟だな」

「それはやだなぁ」


少しして代担の先生が教室に現れ、私達の会話は途切れた。

担任から預かったのであろうメモを片手に朝礼を進めていく代担の先生の話は殆ど聞かずに、今さっき土屋の口から発せられた言葉を反芻していた。




彼──土屋太陽(ツチヤタイヨウ)は、バスケ部のエース。

エースがどんな存在なのかはイマイチピンとこなかったけど、そこそこ強いうちのバスケ部の中でも土屋はずば抜けて上手いんだって、去年同じクラスだったバスケ部員の友達が教えてくれたから、きっとすごいんだろう。


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