たとえば呼吸をするように
「もー、遅いよー」

「ごめんごめん」


言いつつ、上靴からローファーに履き替える。

沙美は待ちくたびれた様子で、私に向き直る。


「ふたりで何話してたのー?」

「別に……私がフリーで可哀想だとか、そんなん」

「……何それ。そう言う土屋もフリーでしょうよ」


呆れ顔で笑う沙美に吊られて、私も笑ってしまう。


「お待たせ……って、何笑ってんの?」

「んー?内緒」

「なんだそれ」


行こう、そう言った沙美は彼氏の手を取って歩き出す。

そうすると、必然的に私と土屋が隣になるわけで。


「あいつってほんと自由だよなぁ」

「沙美?」

「そう。台風みたい」


その例えは的を射てるような気がして、思わず吹き出してしまった。


「確かに台風……!」

「だろ?」


口元を押さえて笑う私に、得意げな土屋。

そんな顔に思わずときめいて、顔が火照るのを感じて。想いに気付かれてしまうんじゃないかって、一瞬焦ったりもするけど、


「どうした?」


その表情が、土屋の目に映ることはなくて。


「……ううん、何でもない」


ぎゅうっと、胸が苦しくなった。


どうして、土屋は平気でいられるの?

今まで通りでいられるの?


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