好き/好きだった
付き合って最初のデートは所沢にある亜矢美の家にした。
行ってみたかったのだ、彼女が引っ越す前に。遠くへ行かないうちに。
亜矢美が進学する大学は東京の東側、東大の近くにある。
住所は所沢から千駄木に変わる。
秋津と千駄木は片道1時間ほど、もう頻繁に会うことはできなくなる。
家でゴロゴロして談笑してなし崩しにベッドへ向かう、
まったりとした時間がうれしくてしょうがなかった。
一緒にいるだけで楽しかった。
「次いつ会えるの?」
カーテンの隙間から漏れるかすかな光に照らされる、
上目遣いの亜矢美が愛おしかった。
引っ越しはその3日後に行われた。
引っ越して落ち着いたら千駄木で会うことになっていた。
その日、亜矢美はグラスの氷がストローで飲めるくらいになって
不忍通りの喫茶店に来た。
「ごめん、掃除してた。本当にごめんね」
そこには何でも許せる自分がいた。
「全然大丈夫だよ。本、読んでたから」
それから亜矢美の部屋に行き談笑し、性交した。
翌日も、その翌日も俺たちは都内でデートを繰り返した。
そうしているうちに入学式があって、授業が始まった。
授業がある日も終わってから双方の家に行きいつもの時間を過ごす。
泊まることも増えた。行き違いで小さな口論こそあったけど、
幸せな時間は5月になっても途絶えなかった。
遊び疲れて学校に遅れることも、課題を終えられないこともあったが、
それでも楽しかった。

気にしなかった、気にしたくなかった。

いつまでもこんな時間が続けばいいと、その時は思っていた。
< 2 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop