fermata
 その日も強い風に嬲られながら、ぼーっと遠くの海を見ていた。
 高台だけに、途中遮るものがなく、海風がもろに身体を殴る。
 初夏の日差しの中では心地いい。

 そんなことを思っていると、ふと何かが聴こえるのに気付いた。
 座ったまま、視線を後ろに投げる。

 洋館の、二階の窓が開き、白いカーテンが風に煽られていた。

 あのカーテンが、白い影になったんだな。
 人の噂なんてそんなもん。

 しかし窓が開くなんて珍しい。
 もしかしたら今までも開いてたのかもしれないけど。
 ここにはよく来るけど、洋館をまじまじ見たことはないのだ。

 開いた窓を眺めている私の耳に、ピアノの音が聴こえてくる。
 何だ、人がいるんだ。

 下からは、人影は見えない。
 白いカーテンがピアノに合わせて踊っているだけ。
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