fermata
 私は前の景色に視線を戻した。
 背後の窓からは、ピアノの音が続いている。

 何だっけ、この曲。
 難しそう。



 随分長い時間、そうしていた。
 BGM付きの絶景。
 何て贅沢。

 ふ、と音が途絶えた。
 曲が終わったのかな、残念。

「何してるの」

 後ろから声がした。
 少しノイズの多い、かすれた声。

「景色を見てる」

 前を向いたまま答える。
 そのまんまだけど、それ以外答えようがない。
 別にここは洋館の敷地内ではないから、怒られることもないはず。

「暑くない?」

 再びかすれた声。

「丁度いい」

 次の質問はなく、再びピアノの音が耳に届いた。
< 4 / 11 >

この作品をシェア

pagetop