fermata
「暑くなってきたね」

 梅雨が終わると、もう夏だ。
 遮るもののない空き地には、強い日差しが降り注ぐ。

「そこ、日陰ないし」

「日傘差してるから」

 風に踊るカーテンの向こうから、指慣らしのような軽い曲が聴こえる。

「協奏曲第三番は長いよ」

「炎天下ではキツい?」

 聞いてみると、ふ、と曲が止んだ。
 しばらくの沈黙の後。

「入る?」

 かすれた声が聞こえた、と思った瞬間、ぎいぃ、と音がした。
 振り向くと、窓の下の扉が開いている。

 ちら、と上に目をやると、相変わらず窓から白いカーテンが揺れている。
 今日はあんなに風があるだろうか。

 立ち上がり、扉に近付く。
 強い日差しが照り付けているというのに、扉の中は何も見えない。
 明るいところにいるからかな。
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