名前のない物語
それはその音が嫌だったからではありません。
ただ悲しかったのです。
彼女は時々町で聞く彼の音楽が大好きでした。
それは彼女をとても幸せな気持ちにしてくれていました。
しかし「うそつき」の『だいすき』は結局「うそ」にしかならなかったのです。
それから彼女は彼の音を聴くことをやめてしまいました。
これ以上傷付くのが嫌だったから。
だから、久しぶりに聞いたその音がとてもとてと悲しかったのです。