運命の扉
全員の出欠を取り終え、ホームルームが始まる。
「じゃあ、クラス役員決めます。クラス委員長やりたい人いるかなー?」
ほとんどの生徒が、先生から机と視線を下げた。
ただ1人を除いて。
「はい!俺やりまーす!」
声のする方を見ると、元気よく手を上げる真中くんの姿があった。
「本当?助かるわー。ありがとう!」
先生は嬉しそうに、黒板へと真中くんの名前を書いた。
「男子から委員長が出ので、女子で副委員長やってくれる子はいないかな?他推薦でもいいんだよ?」
他推薦って言ってもクラス替えしたばっかで無理なんじゃ。
「はい!」
また、真中くんが手を挙げた。
「俺、井上さんがいいと思いまーす!」
えっ、あたし!?
クラス中の視線が、あたしへと集まる。
「井上さん、委員長、直々の推薦どうかな?」
どうって……
「他にいないみたいだし。」
「やれば?」
横から悠人。
「いいじゃん、やろー!」
ほぼ端と端の距離から、真中くんがニーっと笑いかけてきた。みんなの視線はあたしに向けられたまま。黙ってれば黙ってるほど断れない空気が増してく。
「……わかりました。やります…。」
みんなの視線に耐え切れず、真中くんの推薦を受け入れた。断る理由も見つからず、仕方なく返事をする。
「ありがとう!じゃあ、次は書記ね。やってくれる人ー。」
「はい。」
書記に悠人が迷わず手を挙げた。
「あら、内原くん。ありがとう。」
先生は益々嬉しそうにした。悠人が率先するなんて珍しい。いつもはクラス役員とか面倒臭がってるのに。
クラス役員も決まり、時間割りを配ったり、ホームルームは無事に終了した。鐘の合図と共に教室が騒がしくなった。
「珍しいじゃん、役員なんて。」
「なんとなくだよ。三年だし。内申書。」
内申書ねぇ。
三年になったばっかなのに、もうそんなの考えてたんだ。
バタバタと足音が近づき、あたしと悠人の席へ美佳がやってきた。なんとなく、聞かれることはわかってる。
「ちょっとー!真中くんのこと知らないって言ってたよね?」
ほらね。あたしよりも美佳の方が大騒ぎ。
「知らないよ。」
本当に、今日初めて姿を見た。だから副委員長に指名されたときはビックリ。
「井上さん!!」
苗字を呼ばれると同時に声がした方を振り向くと真中くんが席の後に立っていた。ニコっと笑いかけてくる。
「ゴメンね、推薦なんてしちゃって。」
「いえ……」
「ねぇ、真中くんはどうして真帆を推薦したの?二人とも初対面だよね?」
あたしがしたかった質問を美佳が投げ掛ける。
「俺は知ってたよ!井上さんのこと。」
へっ?
「ずっと仲良くなりたいと思ってたんだよね。だからクラス役員、進んでやったし、推薦した!」
どういうこと?真中くんは、いつからあたしを知ってるの?頭がごちゃごちゃして整理が付かない。
「これからよろしく。」
黒く日焼けした手を差し伸べられる。あたしはゆっくりと握手をした。
「内原くんだっけ?役員よろしくね。」
「あぁ。よろしく。」
「俺さ、仲良い奴とクラス離れちゃったからさ、仲良くしてね!」
真中くんは白い歯を見せて笑いながらあたしたちに笑いかけた。
「そうなんだー!じゃぁ、みんなでお昼食べたりしよう!」
楽しいことが好きな美佳は真中くんの肩を軽く叩いて嬉しそうに答えた。
「おぉー!いい案だ、それ!」
美佳と真中くんは二人で盛り上がってる。
こうして、何が何だかわからない状況で新学期が始まった。