運命の扉

二人で話し込んで、気付くと外はオレンジ色に染まっていた。
「プリント、先生に届けなきゃ!」
すぐ終わるはずの仕事なのに、だいぶ時間は進んでる。わたわたとプリントを出席番号順に並び替え、男女分重ねた。
「かなり時間取らせちゃったし、俺が職員室持ってくよ。真帆は帰る準備してて?」
「えっ、でも…敬ちゃん部活あるんじゃない?」
「今日は朝練だけだから大丈夫!それに部活あったら、こんな時間に俺ここにいない。」
そう答えて、敬ちゃんは微笑んだ。
「ありがとう」
「途中まで送る!今の時期、変な人多いから!」
「そんな気遣いしなくても大丈夫だよ。」
「だ〜め。すぐ戻るから待ってて!」
敬ちゃんは走って教室を出て行った。

カバンを机に置いて、携帯を取り出す。
【新着メールあり】
ディスプレイにメールの着信を知らせるメッセージが表示されてる。受信BOXを開くと、汐里からのメールだった。
『委員お疲れさま。
悠人から1人で帰ってって言われちゃった。遅くなってもいいから、一緒に帰ろう?教室で待ってるから、終わったら来て下さい。』

1時間前のメール。急いでAクラスの教室に行くと、ポツンと席に座ってる莉紗がいた。
「汐里!」
「真帆。終わったの?」
「ごめんね、今メールに気付いたの。」
「ううん。先に帰ってれば良かったんだけど…やっぱり寂しくて。」
「とりあえず、うちのクラス移動しよう。同じ役員になった子と途中まで帰る約束してて、教室に戻ってくるの待ってるんだ。」
あたしと汐里はBクラスに移動して、真中くんを待つことにした。
「役員の子って男の子?」
汐里が首を傾けた。
「真中敬って子。悠人と美佳は『有名だよ〜』って言ってたんだけど、知ってる?」
「知ってる。」
汐里は小さく頷く。
「知ってたの?」
「うん。1年生のときに声かけられて。真帆のこと聞かれた。でも真帆には声かけたこと内緒にしといてって言われてたの。」
やっぱり、あたしだけ敬ちゃんの存在を知らなかったんだ。

「お待たせ〜!」
元気よく敬ちゃんが教室にかけこんできた。
「あっ!!」
汐里の存在に気付くと、目と口を大きく明けて驚いた。
「こんにちは。お久し振りですね。」
おずおずと汐里に近づく。
「久しぶり。どうしたの?こんな遅くまで。」
「真帆のこと待ってたの。」
「帰るの、汐里も一緒で大丈夫かな?」
「全然!みんなで帰ろう!」


あたしを真ん中にして3人で歩く。
いつもは悠人が一緒だけど違う顔と歩くのって、ちょっと不思議。いつも三人一緒が当たり前で、悠人がいない時は汐里と2人。同じ道を歩いてるだけなのに、景色は全く違って見える。汐里と敬ちゃんはすぐに打ち解けて仲良く会話を繰り広げてる。ふと、体育館に視線を移す。ちょうど休憩中なのか、優斗が扉の前でペットボトルを片手に座ってる。汗で濡れた前髪を春の風が気持ち良く揺らした。ドキッと胸が高鳴る。
鍵をかけた扉がかたかたと音を立てた。
いつもそうなんだ。遠くから悠人を見つめると、しまい込んだ気持ちが寂しそうにする。その気持ちをぐっと堪えて、2人の輪へと時間を戻す。
「ねぇ、2人は内原とどういう関係なの?」
「悠人の両親と、わたしたちの両親が仲良しで。お家も隣同士だったから。」
汐里が答える。
「そうなんだー!俺、てっきり真帆と付き合ってるから仲良いって思ってた。」
敬ちゃんのなんともない言葉に、一瞬、汐里の表情が曇った。気がした。
「悠人とは腐れ縁。小学校からずっと同じクラスだったの。ただ、それだけ。」
だからあたしは慌てて敬ちゃんの言葉を否定した。
「良かったー!」
敬ちゃんは両手を高らかに挙げた。今の声が校庭中に広がり、みんなの目があたしたちに向けられる。その中に悠人の姿。一瞬、目が合った。でも悠人は何事もなかったように体育館へ戻ってしまう。あたしの思い過ごしかな。胸がちくりと痛んだ。ほら、また扉がカタっと音をたてる。

「真帆?」
名前を呼ばれてはっとする。目の前には、あたしの顔を覗き込んだ敬ちゃんの顔があった。
「へっ?」
「ボーっとしてた。」
「な、なんでもない!」
あたしは笑顔を作る。こうやって、扉を強く閉めるんだ。笑顔が…扉の鍵なんだ。

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