運命の扉
「みんな、おはよう!」
向井先生が今日も元気に教室へ入ってくる。いつもこのテンションなのだろうか。
「じゃあ、委員長に朝の挨拶頼もうかな!」
明るい声で敬ちゃんに挨拶を頼んだ。先生の視線が敬ちゃんの座席へと移る。勿論、クラス中の視線も。
「・・・!また遅刻!?もう、新学期始まってまだ2日目なのに。」
ガクっと肩を落とした。敬ちゃんが教室にいないのは、朝練の練習が押してるからなんだろうな。理由なく遅刻するような人じゃないと思うし。
「井上さん、お願いしてもいい?」
「あっ、はい。起立、おはようございます。」
挨拶ってこれでいいのかな?あたしの言葉を生徒たちが復唱し、イスへ座る、と同時に後ろのドアが勢い良く開いた。まるで、タイミングを見計らったかのように。
「すいません!遅れました!」
はにかみ笑顔で敬ちゃんが教室に入ってきた。制服のネクタイが少し緩んでいる。きっと彼なりに急いで着替えてきたんだろう。
「もう、まだ2日目なんだからね!」
「はーい。」
椅子を引き、座った瞬間、目があった。口パクで「おはよう」と挨拶される。あたしは小さく頷いて笑顔で返した。
「真中くん、井上さん」
ショートホームルームが終わって、向井先生に呼ばれ、教卓に足を運ぶ。
「昨日はアンケート回答ありがとう。昨日、全部目を通したんだけど、凄く面白かったから早くみんなにシェアしたいの。今日の放課後にお仕事お願いしてもいいかな?」
あたしは大丈夫だけど。チラっと敬ちゃんを見上げる。
「あー、俺部活だ。」
「そうだよね。」
向井先生はたった一言で全てを察したかのように返事をした。
「井上さんは?」
「あたしは大丈夫です。」
「1人じゃ大変よね…」
「俺、やりますよ。」
悠人が自分の席から返事をした。凄く冷たい声。進んで委員やってるわけじゃないしね。『内申書』のため。だから助っ人するってわけか。感じ悪い。
「ありがとう、本当に助かる。放課後、また声かけるね。」
「内原、サンキュー。」
敬ちゃんがニーっと笑いながら悠人の肩を軽く叩いた。
「おう。」
悠人は敬ちゃんと正反対のテンションで返事をする。ちょっとは愛想みせればいいのに
普段は気さくなくせに。
「真帆、ゴメンね。残れなくて。」
申し訳なさそうに謝られる。
「ううん。部活なら仕方ないよ。悠人がいるし、気にしないで。」
「ありがとう!」
敬ちゃんが白い歯を見せてお得意の笑顔を向けてくれた。そのとき、ドキッと小さく鼓動が高鳴った。ただ、微笑まれただけなのに。
悠人はさっさと自分の席に戻ってしまった。
「俺、内原に嫌われてんのかな〜」
「そんなことないと思う。」
わからないけど。あたしは作った笑顔で、そう答えるしかなかった。