憧れの染谷くんは、いつも
「ところで松井さん、また敬語」
染谷くんは、ため息混じりに言う。
同い年だということは知っていたけれど、つい身構えてしまって敬語になってしまうのは、私の悪い癖だ。いつまでもこんなだから友達も全然できないのかもしれない。
「もっと気軽に話そうよ」
「えっ」
まさか染谷くんにそんなことを言われるとは思わず、驚いた。
「俺は今から松井って呼ぶから。松井はなるべく敬語やめて」
急に命令口調になった染谷くんに驚いて、思わずまばたきを繰り返した。宣言してすぐ実行に移してしまうところが、すごすぎる。
でも。
もしかしたら、これが自分を変えるきっかけになってくれるかもしれない。
その眩しい光を、ほんの一筋分けてもらえるかもしれない。
焼かれるのは嫌だけれど、ちょっと焦げるくらいなら。
私は顔を上げた。
「頑張ります……」
ぼそっとつぶやくと、染谷くんは敬語じゃん、と大きな声で笑った。同じグループになった他の同期から仲がいいねと茶化されて、恥ずかしくなってしまう。
それなのに、染谷くんは。
「一番最初に話した者同士、仲良くしよう」
そう言って右手を差し出した。