憧れの染谷くんは、いつも
いよいよ当日
誕生日当日は、目が覚めた瞬間から緊張していた。普段より身だしなみを気にしてみたり、寝癖を念入りに直したり。まるで自分じゃないみたいな気の入りようだ。
(元のレベルはどうしようもないけれど、少しでも印象が良くなりますように!)
鏡に映した自分の姿を見て、少し前までの自分とは大違いだとしみじみ思う。あの頃はその日をしのぐことでいっぱいいっぱいで、周りどころか自分のことすらよく見えていなかった。
(それでも、染谷くんは見ていてくれた)
染谷くんと付き合い始めてから、私の世界はやっと呼吸をし始めたような気がする。不安を感じることも数多くあるけれど、それ以上に絶対的な安心感のある生活が、私の気持ちに余裕を持たせてくれた。
そうでなければ、ふと見上げた空の色の青さや、季節ごとに変わっていく鳥のさえずりにも気付かないまま、日々を過ごしていたことだろう。
通勤路を歩きながら、そんなことを考えていた。
(染谷くんは、魔法使いみたい)
ふふ、と思わず声が漏れてしまい、私は慌てて口元を押さえた。
余裕と気の緩みは違う。たるんで染谷くんに迷惑をかけないようにしなくては。
今日の業務も頑張ろうと、私はそっと気合いを入れた。