憧れの染谷くんは、いつも

ーー染谷くんは、あまり自分から仕事の話をしない。

〝今こんなことをしている〟だとか〝この時期は忙しい〟といったことは時々話題になるが、自分の成果の話は全くと言っていいほどしないのだ。そういうところも、染谷くんらしいなと思う。変に私が裏を読んで心配してしまわないようにと、染谷くんなりの優しさなのだろう。


(やっぱり、違う世界の人みたい……)


たまたま同期入社だっただけの、何の特徴もない私はきっと、運が良かったのだ。あの染谷くんの隣にいられるという事実に、今も戸惑うことがある。


『松井は、俺のことを買いかぶりすぎ』


そんなことを言うと、決まってたしなめられるけれど。


(だって本当のことだし……)


思わずため息が漏れる。私は本当に、染谷くんと一緒にいてもいいのだろうか、と。

まるで催眠術から解けたかのように、ふとした瞬間についそんなことを考えてしまうーー。


「松井さん? どうしたんですか?」


ぼんやりしているうちに、立ち話をしていた人たちはいなくなっていたようだ。通路の端にポツンと立っていた私を不審に思ったのか、声をかけられた。

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