憧れの染谷くんは、いつも

勢いのあまり


「ふう、やっと終わった……あ!」


(終業時間とっくに過ぎてる!)


今日の電話応対内容をシステムに登録し終わった私は、時計を見て打ちひしがれていた。既に定時を一時間も過ぎている。


〝おめでとう〟


そのたったひとことを言うのが、こんなに難しいことだとは思いも寄らなかった。


(今日はもう諦めて、また後日にしようかな……)


今の営業部の忙しさを考えると、残業時間中に気軽に話しかけることは難しいだろう。行ったとしても染谷くんに迷惑をかけてしまうことが目に見えている。

こんなにすれ違うのだったら、もしかしたらあらかじめ渡しに行くことを伝えていた方がよかったのかもしれない。そう思い始めた、どんどん弱気になっていく自分がいる。

味気ないけれど今日はメールだけを送って、染谷くんの仕事が落ち着いたら改めてお祝いしよう。


「はあ」


自分の段取りの悪さに悲しくなりながら、私はパソコンの電源を落とす。もう帰ろうとバッグをつかんで立ち上がったところで、室長に声をかけられた。

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