憧れの染谷くんは、いつも
・・・・・
書類は無事に届けることができた。しかし、どこを見渡しても肝心の染谷くんは見当たらない。きっと今日はそういう星の巡り合わせなのだろうと思い直して、私は気持ちを切り替えることにした。
渡した書類をパラパラと確認した高嶋課長は、私の方を向いて言う。
「ありがとう。なにあいつ、俺に会いたくないって? 相変わらずだなあ」
そう冗談めかして笑う彼は、室長の同期だ。一時は付き合っているという噂もあったけれど、真相は分からない。
「そんなことないです! 急に都合が悪くなったそうで!」
自分のせいで室長が悪者になってしまわないよう、私は身振り手振りを使って必死に否定した。もちろん彼が本気で言っているわけではないことは、その笑顔で分かってはいたが。
「ーーどうしたの松井、珍しいね」
染谷くんの声がしたのは、そんな時だった。振り返ると、先ほどまでいなかった場所に染谷くんが立っている。まだしばらくは残業するつもりなのか、手には栄養ドリンクが握られていた。
「染谷くん!」
私の姿を見て驚いている染谷くんを見て、私も大いに驚いた。今日会うことは諦めていただけに、じわじわと喜びがわいてくる。