憧れの染谷くんは、いつも


ーーあれからもう4年。

染谷くんと握手をしたのは、後にも先にもあの1回だけだ。もうしないって言っていたのに、懲りずに差し出された手のひら。

優しい手のひら。

手を握ったときの染谷くんの驚いた顔が、今でも忘れられない。


そこから一気に場が和やかになって、同期たちと距離を縮めることができた。そして雰囲気が良くなると、団結力が強くなることを学んだ。皆でアイデアを出し合ったり、調べものをしたりと、充実した時間だった。
染谷くんはひとりひとりの得意な分野にいち早く気付いて、さり気なく人を割り振っていた。あの頃から、リーダーの素質がある人だったと思う。

ミニプレゼンはもちろん成功した。
最初の染谷くんとのやり取りがなかったら、こうはいかなかっただろうと思うと、感謝の気持ちでいっぱいだった。当初感じていた染谷くんへの苦手意識はすっかり消えていて、代わりに違う思いが私の胸を占める。



どうやったら染谷くんみたいに、何でもできるようになれるんだろう。

入社してすぐの頃は、人より何倍も飲み込みが早い彼を見てそう真剣に悩んだものだ。
だけど、その考え自体間違えているとすぐに気付いた。

そもそも生まれ持ったものが違うから。

私は、当たり前だけど染谷くんにはなれない。だから自分なりに努力して見つけるしかない。

私の、私だけの、働き方を。

私のちっぽけな努力なんて、たかがしれているけれど。


染谷くんは、一番近くて一番遠い、私の憧れの存在だ。
あの新人研修のときから、今でもずっと。


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