憧れの染谷くんは、いつも
私は胃痛持ちだ。
少しずつ悪化しているのか、2年ほど前からは薬が手放せない。
お医者さんには仕事のストレスが原因だと言われたけれど、誰にも言えなかった。ろくに成果も上げていないような私がストレスだなんて、他の社員に申し訳ない。それに、せっかく入った会社をまだ辞めたくはなかった。
だから私は会社の人に内緒にして、毎日こっそり薬を飲んでいる。
(……とにかく自分の席まで戻らないと)
残念だけど昼食どころではなくなってしまった。
立ち上がろうと壁に片手を置いて、足に力を入れたとき。
「松井!?」
今一番会いたくない人の声がした。
染谷くんは仲間内で外にお昼を食べに行っていたようで、ちょうどビルに戻ってきたところだった。4、5人の輪から抜けてこっちに来る。
見上げると、心配そうな顔。
「大丈夫か?」
「うん、ちょっと立ちくらみしちゃったみたい。もう大丈夫」
私は無理やり笑顔を作った。よろめきそうになる自分を励ますようにさっと立ち上がる。染谷くんが早く立ち去ってくれることを願いながら黙っていると、逆に近付いて来る。さっきよりも大きく視界を遮ってくる顔を見て、狼狽えた。
「ほら。肩、貸すから。つかまって」
壁際に立ったまま動けなくなっている私に、染谷くんはそんなことを言う。逃げようにも、目の前に立たれて逃げ道を塞がれてしまっていた。
確かに私は、立ちくらみと言ったはずなのに。