憧れの染谷くんは、いつも
ビルに併設されている医務室で看てもらうと、私は軽い胃潰瘍のようだった。薬を飲み、ベッドに横にならせてもらう。
「松井のバッグ持ってくるよ」
染谷くんはそう言って部屋を出て行こうとしたので、慌てて止める。
「少し休んだらすぐ戻るから、大丈夫だよ」
彼は振り返ると、つかつかと私の枕元に戻ってきた。少しつり上がった目つきを見て、怒られる、と本能で感じる。思わずぎゅっと目をつむったけれど、何秒経っても何も聞こえてこなかった。
おそるおそる目を開けると、至近距離に眉をハの字に寄せた染谷くんの顔。そして私の額には優しい手のひら。
「そっ、染谷くん、なに……」
あたふたと距離に戸惑っていると、染谷くんは小さい声で呟いた。
「……ごめん」
「え? 急に、どうしたの?」
どうして、染谷くんが思い詰めたような顔をしているんだろう。もしかして、私のネガティブ思考がうつってしまったのだろうか。
さっき飲んだ薬がじんわり効いてきて、少しぼんやりしてきた頭でそう思った。
「俺、何もしてやれなくて」
「……」
染谷くんは、何も悪くない。
どうしてそんな苦しそうな顔をするんだろう。
「本当は松井がしんどそうなの、前から気付いてた。でも、松井はいつもそれを見せないようにしてただろ」
「……」
染谷くんは、気付いていたんだ。
誰にも気付かれていないと思っていたのに、私はいつもそう。小さな隠し事ひとつも上手くできない。
「だって私……」
言おうかどうしようか迷っているうちに、勝手に口からするりと言葉がこぼれる。
「ただでさえ、会社の荷物みたいなものなのに。体調不良だなんて更に迷惑かけちゃう」
本当は、染谷くんには絶対知られたくなかった。
憧れの人に、これ以上幻滅されたくなかったのに。