憧れの染谷くんは、いつも
「松井は自分で気付いていないかも知れないけど。電話応対の時、よく笑っているよな」
「そう、なの?」
「うん。可笑しくて笑うんじゃなくて、優しい笑顔なんだよな。無意識だとしたら、すごい才能だよ」
「え、ええと……」
唐突に仕事のことをほめられて、返す言葉が見つからない。目線が空中をさまよった。
「普通クレームなんて言われたら、嫌な気持ちが前に出るだろ。ああいう風に柔らかい雰囲気で応対してもらえると、お客さんも嬉しいと思うんだ」
「……そうかな。よく怒られるし、きっと頼りないと思われてるよ」
「そんなことない」
清々しいほどきっぱり言い切ってくれたことがとても頼もしかった。
こんな私にも、染谷くんはどこまでも優しい。
「よく周りを見てるんだね。さすが染谷くんだ」
やっぱりできる人は、器が違う。
すごいなあ、と感心して言うと、妙に歯切れの悪い回答が降ってきた。
「あ、いや、それは……」
染谷くんは何かを言おうとしたように見えたけれど、すぐに口を閉じてしまった。珍しかったので理由を尋ねようと思ったけれど、まぶたがずん、と重くなる。
「染谷くん、ごめ……ちょっと、寝るね」
薬の影響か、染谷くんが優しくしてくれたからか。
私は強烈な睡魔に襲われてしまい、返事も聞かないまま眠りに落ちた。
手のひらの温もりが、いつまでもそこにあるような気がした。