憧れの染谷くんは、いつも
所属部署の実態
私はタカサキコーポレーションという電子部品専門の商社で『カスタマーサポート部 お客様相談室』という部署に勤務している。うちの会社を経由して販売した製品について、顧客からの問い合わせ等を担当している。
小さいけれど、所謂コールセンターという形態に近いのかもしれない。
入社してここに配属されてから異動は一度も無く、今年で5年目になる。業務に慣れてはきたけれど、元々引っ込み思案で緊張しいの私には課題が山積みだった。早く周りの先輩みたいに何でもこなせるようになりたいのに、毎日焦りばかりが募っていく。
普通は丸4年もいたら、それなりに頼りになる存在になるはずだ。少なくとも私の同期たちはプロジェクトのサブリーダーなどの、小さなチームをまとめる役割に就いている。私を焦らせるのは、そういった同期たちの影響もあった。
ちなみに、染谷くんはサブリーダーどころかいくつもリーダーを掛け持ちしているらしい。
(やっぱり私、この仕事向いてないのかな……)
そう思うようになったのは、いつからだろう。もっと人と上手く話せるようになりたいけれど、嫌な思いをさせていないか不安になってしまう。自分の発言ひとつで会社の印象が決まってしまうと思うと、悩んでしまう。
配属されてすぐの『頑張ろう』とやる気に溢れていたあの頃に帰りたい。そうしたら今度はもっと、上手くやれるのではないか。
そこまで考えて、いつも我に返る。
いや、戻ったところで結局一緒だ、と毎回たどり着く答えも同じ。考えるだけ無駄なのだ。
自席に着いて小さくため息をこぼすと、またしてもチリチリと小さな痛み。
お腹をさすりながらパソコンを立ち上げ、今日の業務を確認する。
何事もなく過ごせるといいな、と願いながら始業ベルを聞いた。