憧れの染谷くんは、いつも
ある意味、ランチミーティング
翌日私は病院に寄ってから出社した。お医者さんの表情は相変わらず険しかったけれど、そのまましばらく様子を見るようにと言われてほっとした。少しずつでいいから、薬を減らしていきたい。
いつもより大分遅れて会社に着くと、どことなく様子がおかしいことに気付いた。やけに見られているような気がする。今までの人生で注目を浴びることなど皆無だったので、何だか落ち着かない。特に誰かに話しかけられるわけではなかったが、どうにもそわそわしてしまう。一体どうしたというのだろう。
ーーその謎はランチタイムに解明した。
「ーーはい、ありがとうございました。失礼いたします」
午前中最後の電話はとてもスムーズだった。お宅と取引出来て本当に良かった、と、お客様の雑談が飛び出すほどに。
嬉しかったので〝対応記録〟に入力しておく。
私の部署では対応した内容を社内ネットワーク上へ保存している。大企業のように通話を録音することができればこのような作業は不要かもしれないけれど、私たちにとっては大事な仕事だ。
クレームがあったときや難しい要望があったときは、この対応記録を見れば過去どのように回答をしたか確認ができる。
私は後学のため、こまめに打ち込むようにしていた。
(よし、出来た)
時間に余裕のある昼休みは久しぶりだ。
今日は近場のカフェに行こうかな、とうきうきした気分でエレベーターのボタンを押す。そこはトマトを使ったサンドイッチが絶品の店だ。サンドイッチと一緒に何の飲み物を注文しようかと考えながら、エレベーターが来るのを待っていると、背後から声をかけられた。
「あれ、松井」
振り返ると、昨日染谷くんとの会話に出てきた同期の高瀬くんが立っていた。彼は隣のシステム部に所属している。染谷くんとは仲がいいようで、よく一緒にいるところを見かけるが、今はひとりのようだった。
「高瀬くん、久しぶり」
「今から昼?」
「うん。たまには近くのカフェに行こうかと思って」
「ふーん、そう……」
私たちはそのままエレベーターに乗り込んだ。高瀬くんは、なぜか急に内緒話をするような小声で話しかけてくる。
「……なあ。今日はカフェやめて蕎麦屋行かない? ちょっと松井と話したいことあるし」
「いいけど……どうしたの? 珍しいね」
高瀬くんは周りを気にしているようで、それ以上何も話してくれなかった。高瀬くんとは帰りが一緒になることはよくあるけれど、2人でご飯に行くのは初めてのことだ。