憧れの染谷くんは、いつも
「そんなこと言えるの高瀬くんだけだから……」
正直に答えただけなのに、松井って面白いよなーと笑われた。
高瀬くんは、前からこうだ。染谷くんに対して全く遠慮がない。本人の前でもはっきり言う。それでも険悪な雰囲気にならずに仲良くいられるのは、お互いのことを認め合っているからだろう。
「あいつは確かに仕事は出来るけど、仕事以外の経験値が足りないんだよ」
「そう、なの?」
私から見ると何でもこなして完璧なんだけどな、と思っていると、見抜いたように即座に言われた。
「松井はもっと足りないから」
「あ、ハイ。スミマセン……」
自分を基準にして考えていたことがバレていて恥ずかしい。私は思わず俯いた。
「……でもまあ、松井のそういうところがいいんじゃない? 染谷にはさ」
「良くないよ。変な誤解を解かないと」
「俺はこのままでも面白いと思うけどなあ」
それは他人事だから言えることだ、と高瀬くんを恨めしく思った。
染谷くんにとってはいい迷惑だろうに。どうして私はいつもいつも足を引っ張ってしまうのかと、悲しくなる。
「松井」
「……なに?」
「とりあえず蕎麦食え。そんなんじゃ俺も心配になる」
「う、うん。ごめん。頑張る」
「残ったら食ってやるから」
私が蕎麦を一生懸命食べている間、高瀬くんは何も言わずに待っていてくれた。