憧れの染谷くんは、いつも

「高瀬。この前の話だけど、こっちの決裁下りたから」


相変わらずまっすぐな意志を感じる声だ。言われた高瀬くんは、ため息を吐く。


「ああもう、わかったよ。お前のその仕事にかける情熱には負けた」


よく下りたなそっちの部長決裁、と諦めたように高瀬くんが呟く。


「納期は、月末でもいい?」

「馬鹿言うなよ。俺が今持ってるのが捌けないと無理」


新しい仕事を受注したのだろうか。仕事の話をしている2人は、かっこいいし頼もしく思う。活躍している同期を目の当たりにして、自分が会社の役に立てる日は果たして来るのか不安になったけれど、人と比べても仕方のないことだ。


エレベーターが私と高瀬くんの業務フロアに着いた。
ドアが開いて、高瀬くんが一歩踏み出す。


「染谷、今から会議? この件で今日打ち合わせ出来るか?」

「わかった。後で行くよ」


続けて染谷くんが出て行った。私は、はじめから存在していなかったかのように、ひとりぽつんと残される。

そこで私は、今日初めて染谷くんに会ったことに気が付いた。


「染谷くんに、昨日のお礼言うの忘れちゃった……」


ぼーっと立っているとエレベーターのドアが閉まりかけたので、私は慌てて〝開〟のボタンを押した。
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