憧れの染谷くんは、いつも
「よお、松井」
やっと電話が終わって休憩ルームへ行こうと立ち上がると、部署の入口に高瀬くんが立っていた。
「もう13時になるとこだけど……これから昼?」
「あ、うん。ちょっと長引いちゃって。どうしたの?」
私に何か用があったのかと尋ねると、高瀬くんは小声で言う。
「あのさ。染谷と喧嘩でもした?」
「喧嘩? 別にしてないけど……」
「ふーん。その割には最近妙によそよそしいよな、松井」
高瀬くんは、私の前に立ちはだかった。答えるまで通さないつもりらしい。
「……高瀬くんには隠せないや。後で時間作れないかな? ちょっと話したいことがあって」
「それじゃあ、今日の夜は? ちょうどノー残業デーだし」
「わかった」
返事をすると、高瀬くんはするりと道を空けてくれた。待ち合わせ時間と場所を決め、じゃあまた後で、と短く挨拶する。
あまり時間もないため、何か飲み物を買おうと休憩ルームへ急ぐ。
いつものコーヒーを飲もうとして一瞬ためらった後、私はコーンスープのボタンを押した。
染谷くんに頼らず、ひとりで歩いて行けるようにならなければ。