憧れの染谷くんは、いつも

私たちが入ったのは、会社の最寄り駅の改札内にある、ちょっとしたカフェバーだった。駅ナカというカジュアルな雰囲気が堅苦しくなくていい。


「あー喉渇いた。松井、飲んでいい?」


私が、いいよと答えるより早く、高瀬くんは生ビールを注文したので笑ってしまった。


「今回の仕事が終わるまで禁酒してたから、ホント最高だわ」


高瀬くんは豪快に一気に飲み干して、口元の泡を拭っている。恥ずかしながら、ノンアルコールの、半分ジュースみたいなものをちびちび飲んでいる私はきっと分不相応だろう。


「ごめんね、お酒付き合えなくて」

「ん? 別に気にするなよ」


運ばれてきたエビとアボカドのサラダを取り分けようとして立ち上がると、手で制された。気を遣うな、ということらしい。


「染谷から少し聞いたんだけど」


高瀬くんはドレッシングがたっぷりかかったエビをフォークで刺すと、口に運んだ。
その名前を聞くだけで、脈が速くなる。


「松井、具合悪いんだろ? 言ってくれれば無理に食わせなかったのに」


この前の蕎麦の話だとすぐわかった。
ーーあれは原因が胃痛だけではなかったのだけれど。

たいしたことないのに、染谷くんはきっと高瀬くんに大げさに言ったのだろうと想像がついた。


「無理なんてしてないよ。……結局手伝ってもらっちゃったし」


結構大盛りだったなあと呟くと、あんなの余裕だろと鼻で笑われた。

< 35 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop