憧れの染谷くんは、いつも
私たちはしばらく他愛のない会話を続けた。
〝たまには洒落たものが食べたい〟という高瀬くんのリクエストにより注文したマッシュルームのアヒージョは、想像よりずっと熱くて口の中を火傷しそうになる。
慌ててお冷やを貰う高瀬くんに笑ったり、最近のおすすめの映画の話をしたり。
このまま、何も話さず楽しかった気持ちのまま帰りたいな、と思い始めた私に気付いたのか、高瀬くんは急に声のトーンを低くした。
「そろそろいいか? 本題」
さすがにこれ以上ははぐらかせないと観念して、私はフォークを置いた。
「……私、染谷くんから、自立しようと思ってるんだ」
「自立?」
意味がわからないという風に表情無く黙っている高瀬くんに、私は理由を告げた。
「わかったの。染谷くんの好きな人」
「え……わかったって、それは」
「私が近くにいたら、迷惑かけちゃうから。私、染谷くんみたいにはなれないけれど、せめて頼らずに生きていきたい」
一瞬で朝の光景が脳裏に蘇る。どんなに忘れようとしても、ふたりの後ろ姿が頭から離れない。
「松井」
顔を上げると、怒ったような顔をした高瀬くんと目が合った。久しぶりに飲んだお酒のせいで、もう赤くなっている。
「嘘吐くな。本当はそんなこと思ってないだろ」
「吐いてない」
高瀬くんは私から視線を外すと、静かにため息を吐いた。
「……じゃあ何で、そんな泣きそうな顔してんだよ」
私はもう、自分の本当の気持ちがよくわからなくなっていた。