憧れの染谷くんは、いつも
「やっと終わった……」
1時間以上のクレーム対応が終わり、ホッとして受話器を置くと、すでに午後1時を過ぎていた。周りの社員は昼食を済ませているようで、午後の業務に従事している。
(またお昼、食べ損ねちゃった)
私はそっと席を立つと、同じフロアの一番端にある休憩ルームへ向かった。クレーム対応で昼休みが取れないことは日頃よくあることだ。そんなとき私は外に出て食事をする気にもなれないので、この休憩ルームでコーヒーを飲んで過ごすことが多い。
休憩ルームはドアで仕切られていて、業務フロアへ声が漏れないように配慮されている。私はいつものように休憩ルームのドアを閉めて、入ってすぐの所に置いてある自動販売機へ小銭を入れた。
(お客様、ものすごく怒ってた)
きっと期待してうちと取引してくださったんだろうと思うと、毎回胸が痛む。どこかでずれが生じたのか、電話がくるころには怒鳴り散らされることも多い。
(なんとか穏便に解決したいのに。人とうまく話すなんて、私にはやっぱり難しいよ)
いつものブラックに手を伸ばした私より、横から出てきた手がコーンスープを押したのが一瞬早かった。
ガコン、とそれは勢いよく落ちてくる。
何が起こったのか分からず呆然と突っ立っていると、ボタンを押した犯人はこう言った。
「コーヒーは止めとけ」
「染谷くん!」