憧れの染谷くんは、いつも
硬い声に思わずびくりと身を震わせる。染谷くんはいつもの笑顔を少しだけ曇らせていた。
「顔色悪すぎ。大丈夫?」
覗き込まれるように顔を近付けられたので、思わず後ずさった。壁があたって右腕がひんやりする。
「うん、大丈夫……」
返事をすると、染谷くんはふーっと長い息を吐いた。普段あまり感情を表に出さない人だとは思っていたけれど、機嫌が良くない雰囲気がわかる。
「昨日、何かあった?」
何かあったのは染谷くんの方だろう。
私は昨日も何もなかったのに、何かあった人に心配されているのは変だと思う。
「別に、何もないよ」
「……」
私の回答が不満だったのか、染谷くんはそれきり黙り込む。
染谷くんが再び口を開いたのは、エレベーターが彼の降りる営業部フロアへ着いたときだった。
「松井、今日迎えに行くから。帰らないで待ってて」
「え、染谷くん、ちょっと待っ」
染谷くんは私の返事も聞かずに、エレベーターを降りてしまった。