憧れの染谷くんは、いつも

「初めて話したときのこと、覚えてる?」

「……オリエンテーション?」

「うん。松井がものすごく早く来てた日」


ふふ、と思い出し笑いをされて、懐かしさと恥ずかしさが胸を占めた。


「黒歴史のひとつだから、思い出したくない」

「そんなこと言うなよ。俺にとっては初めて松井と会った日なんだから」

「染谷くん、大げさだよ」


そんなことを言われたら、舞い上がってしまうからやめて欲しい。


「最初は拒否されたのに、研修の日は握手してくれたから、驚いたよ」


そう言われて、いつでも取り出せるようにしまってあった思い出に入り込む。


私はあの日、少しでも染谷くんに近付きたくて手を取った。いつもより勇気を出して自分から行動してみようと思えたのも、染谷くんがそうさせてくれたからだ。

力の加減なんてわからず、思いっきり握ってしまった握手にきっと染谷くんも驚いたはず。それなのに彼は、優しく握り返してくれた。


『松井、痛い』


そう、嬉しそうに笑いながら。



相変わらず染谷くんは、一番近くて一番遠い、私の憧れの存在だ。
あの新人研修のときから、今でもずっと。

ーーそして今は、もっと違う感情も上乗せで。



「あの時からもう、松井しか見えてないって言ったら引く?」


俺って単純だろ、と笑う染谷くんを見て、私も自分の気持ちを伝えようと口を開いた。あの頃より少しは増えた、精一杯の勇気を出して。

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