憧れの染谷くんは、いつも
本音の帰り道
「……」
「……」
会社から駅までの道のりを、私たちは無言で歩いた。高瀬くんにからかわれて逃げるように退社したものの、会話も無いまま今に至る。
(休憩ルームのドアがちゃんと閉まっていなかったのは、慌てていた私のせいだ)
ため息が出る。
ため息しか出ない。
前にいる染谷くんの隣には並べずに、少し後ろを歩く。時々、ちらりと振り返っては歩く速さを調節してくれていることに気付いてからは、まともに顔を上げられない。
(これから、どうなるんだろう)
染谷くんは勘違いの末に思いの丈を言ってくれたが、まさかの展開に気が変わったりしていないだろうか。
そして私も混乱のあまり便乗するような形になってしまったわけだが、あんなタイミングで言ったことでそれこそ私の方が引かれてしまい、明日から口も聞いてくれなくなったらどうしよう。
考えれば考えるほど、かける言葉が見つからない。不安になって、胸がきゅっと締め付けられるのと同時に、胃の辺りも締め付けられた。
(いたた……)
とうとう着いていけなくなって、染谷くんと少しずつ距離が開き始めた。駅前の商店街に近付くにつれ人通りも多くなってきたことだし、このまま振り返らずに置いていって欲しいと思ってしまう弱気な自分がいる。
どんな結果であれ、染谷くんのお荷物になるのだけは嫌だ。邪魔だというのなら、その時点で切り捨てて欲しい。