憧れの染谷くんは、いつも
時間になると、先輩社員が事務的な話や入社までの流れについて説明してくれた。ちらりと顔を盗み見れば、真剣な横顔。時折的確な質問をしては先輩社員を感心させている。
「どうしかした?」
知らず知らずのうちに盗み見とは言えないレベルで覗き見していたらしい。私の視線に気付いて爽やか過ぎる笑顔が返ってきた。
いつの間にか休憩時間になっていたようで、皆席を立ったり飲み物を飲んだりしている。
(う、わわわ)
「なななんでも……っ」
不測の事態に慌てて下を向いた。笑顔って、あんなに自然に湧き出てくるものなのだろうか。
「松井さんもしかして、具合悪い?」
「だっ大丈夫です! ほんとに何でもないので……」
顔を覗き込まれそうになったので、思わず椅子を引いてしまった。パイプ椅子の脚が床に擦れて、ガガガと耳障りな音が響く。
「ごめんなさい……」
俯いて謝ると、それ以上は追及されなかった。
――これが私の、染谷くんと初めて会った日の記憶。