憧れの染谷くんは、いつも

結局飲み物を奢るわけでも、気の利いたアドバイスをするわけでもない、ただぼんやりとした頼りにならない先輩の姿だけを見せてしまったが。

仲川さんは、最後にまた大きくお辞儀をして休憩ルームを出て行った。


『まだ少し時間がかかるとは思いますが、早く新しい恋ができるようになりたいです』


無理して笑う、正直な人。
そんな状況でも、仲川さんが同じ部署の染谷くんと毎日顔を合わせなければならないことを思うと、何も言えなかった。


(強いな、仲川さんは)


ひとりになった部屋で、私は鈴のようなかわいらしい声を思い出していた。

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