憧れの染谷くんは、いつも
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入社してからしばらくは新人研修の期間だ。10人程いる同期も、この後配属が決まればバラバラになってしまう。全員一緒にいられる、最初で最後の期間だった。
染谷くんは、最初の直感通りすごい人だった。
例え社内規定であっても一生誰にも話す機会が無いような会社の歴史の話であっても、教えられたことは一発で覚える。大事なことは頭の中で整理しているようで、他の同期から尋ねられたことにも難なく回答していた。
染谷くんの凛とした声からは高い志を感じたし、まっすぐ相手を見据える視線は誰よりも遠い未来を見ているように思えた。
何より、まとっている空気が華やかで、彼の周りだけ輝いているようだった。
ーー私とは、完全に真逆の人だ。
比べて私はと言うと。
胸を張って人に言える趣味も特技もない。学生時代からひたすら平凡に生きてきた。目立つことは滅法苦手で、うまく自分の意見が言えないし、いつも相手の顔色ばかり気にしておどおどしてしまう。
あまりにも眩しすぎる染谷くんは近寄りがたかった。初対面のオリエンテーションで面食らってしまった私は、なるべく関わらないようにした。研修の時も離れて座り、無闇に近付くのを避けたほど。
近寄ってしまったらきっと、日の目を見ずに生きてきた私は焼かれてしまう。