憧れの染谷くんは、いつも
すぐにやってきた土曜日当日は、朝からどんよりと曇っていた。
「私、雨女なのかも」
ため息を吐きながら、家を出る。
待ち合わせ場所の、お互いの最寄り駅の中間地点にあるターミナル駅へ向かう。電車に揺られること数駅、大きな改札を抜けると向こうに染谷くんが立っているのが見えた。
「染谷くん」
声をかけると、染谷くんは振り返って近付いてくる。普段見慣れない私服姿もあって、ドキドキと鼓動が速くなっていく。羽織っている白いシャツが、眩しい。同じ白い色でも、平日のワイシャツ姿とは随分と違うものだ。
「お、おはよう。……今日も爽やかだね」
照れ隠しにそう言うと、染谷くんはプッと吹き出した。
「おはよ。正直な感想、どうも」
笑顔を向けられて、思わず目を伏せてしまった。会社で会うより緊張してしまい、うまく話せない。
「松井?」
大丈夫か? と聞かれて、ハッとした。染谷くんは、私がまた具合を悪くしているのか心配してくれている。そのことに気付いて慌てて頭を振った。
「だっ大丈夫! 全然元気だから!」
「……それならいいんだ」
ほっとしたようなため息が聞こえてきて、また胸が高鳴る。
ーーどうしよう、こんなに意識して、変なの。
「どこか行きたい所はある? 松井の希望が特になければ、映画でもどうかな?」
「映画?」
何だか意外に感じて、そっと顔を上げた。染谷くんは照れているような、困っているような微妙な表情をしている。
「あ、いや、松井が映画好きって聞いて……嫌なら他のことにしよう」
そのセリフから、染谷くんが私の趣味を事前にリサーチしてくれていたことが暗に伝わってくる。私はひたすらドギマギした。
「い、嫌じゃないよ。ありがとう」
嬉しさで胸が押しつぶされそうになりながらも、何とか答えた。もう絶対に気付かれているとは思いながらも、にやけそうになる頬を何度も押さえた。