憧れの染谷くんは、いつも
「松井の対応記録はウチでは有名」
「え?! うちって……まさか営業部で?」
「……やっぱり知らなかったんだ。そういう、部署間での連携がまだまだだよな、うちの会社って」
染谷くんは不満そうに言うが、それどころではない。私の入力内容がまさか人目に、それもよりによって染谷くんの目に触れていただなんて。
気を紛らわそうと、買ったドリンクに差してあるストローを口に含んだ。ひんやりとしたオレンジジュースが少しだけ頭を冷静にしてくれる。
「松井のは顧客が抱えてる現在の問題点の聞き取りだけじゃなくて、それに対してどう回答したかとか、そのときの反省点とかたくさん入力してあるから。それがこっちとしてはすごく助かるんだ。次の営業活動の切り口に繋がる」
染谷くんなりの評価を初めて聞けて嬉しかったが、今度からもっと見られることを意識してシステム入力をしなければいけない。私は密かに気を引き締め直した。
「あと。そんな細かな着眼点が松井らしくて、俺は好き」
「あ、ありがと……」
ごく自然に褒められたが、とても恥ずかしい。ちらりと隣を見ると爽やかに微笑まれ、それ以上何も言えなくなった。
「松井、それ何飲んでるの?」
「これ? オレンジジュースだよ」
「ひと口ちょうだい」
ひょい、と手の中のカップが奪われて、気付けば染谷くんが私のオレンジジュースを飲んでいた。
(か、間接……)
まるで、異性を意識し始めた年頃の女の子みたいで恥ずかしいが、こんな些細なことでも照れてしまう。
「俺のは炭酸だけど、大丈夫そうなら飲む?」
今度はお返しにと染谷くんのカップを手渡される。回し飲み自体はもう何度も経験があるというのに、相手が染谷くんというだけでどうしてこんなに緊張するのだろう。
(染谷くんは、余裕だなあ……)
そっと口を付けると、微炭酸が喉の奥でジワッと弾けた。