憧れの染谷くんは、いつも
「私、頑張ってお腹を治して、染谷くんと美味しいものたくさん食べたい」
再び歩き始めた私たちの先に、駅が見えてきた。染谷くんは苦笑しながら言う。
「頑張る必要はないから、焦らずゆっくりな。ストレスが溜まるようなら一緒に発散しよう。……間違っても〝自立したい〟とか言ってひとりで溜め込まないこと」
「何でそのこと……!」
染谷くんには言っていない話だったため、本気で驚いた。このことを話した相手はひとりしかいない。
(高瀬くんだ……!)
根はとても優しいけれど、少しだけ意地悪で、そして時々面倒見が良すぎる同期を思い浮かべた。てっきり内緒にしておいてくれると思っていたので、知られてしまったことに焦ってしまう。
そんな私を面白そうに眺めた後、染谷くんは請うように私の顔を覗き込んだ。
「少しずつでいいから、俺のことも頼って」
「……うん」
俺から自立なんてさせないからな、とわざとらしく宣言されて、私はまた慌てた。
いつも何でも完璧な染谷くん。
そんな彼にも、きっと悩みとか不安とかあるはずだ。時折見せる表情や態度に気付いて、私も彼の支えになりたい。……今はまだ、甘えてばかりの半人前な私だけど。
「松井」
背中をぽんと叩かれた。隣を見ると、染谷くんがとびきり優しい顔をしている。
そう、この表情だ。憧れの染谷くんは、誰よりも優しい目で、いつも私のことを見守っていてくれていた。
「染谷くん……これからも、助け合おうね」
「当たり前だろ」
背中に添えられた手に力がこもって、温かい。その温もりを感じながら、私はこれから続いていく未来へと思いを馳せた。