憧れの染谷くんは、いつも


「松井さん」


新人研修も終盤に差し掛かったある日。染谷くんは、私の名前を呼んだ。相変わらず、流れる水のようなまっすぐな声で。

何てことはない。研修の集大成であるミニプレゼンのグループ分けで、運悪く染谷くんと同じグループになったからだ。


「一緒のグループだね。よろしく」

「は、はい。よろしくお願いします……」


右手を上げかけた染谷くんを見て、また握手を求められるのかと身構えた。
そんな私に気付いたのか、笑われる。


「握手はもうしないから、安心して」


手を上げたのは、カバンから筆記用具を出すためだった。自分の心が読まれたようで、恥ずかしくなる。


あと少しだったのに。
きっと配属後は顔を合わせることもほとんど無くなってしまうはずだし、このまま私と同期入社だということ自体を彼の記憶から抹消して欲しかった。

よりによって同じグループだなんて、気が重い。

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