恋愛と失恋の果てに。
「無理しなくてもいいよ。俺の前では……」
私の顔を見ながらニコッと微笑んでくれた。
その優しげな笑顔を見たら
何だが涙が溢れて止まらなかった。
阿部さんは、黙って泣いている私を優しく抱き寄せてくれる。
まるで泣いてもいいよと言われているようで
素直に甘えることが出来た。
しばらくして連れて来られた場所は、
何処かのお店とかじゃなくて大きなビルだった。
あれ?ランチは……?
「あの……ここは?」
「俺の実家が経営している会社だよ!
ほらビル名も俺の苗字だろ?」
そう言って指を指した方を見ると確かに
『阿部エンタープロダクション』
そう書かれてあった。
あれ?この名前……何処かで聞いたような?
何故阿部さんの実家が経営している会社に
連れて来られたのか分からなかったけど、あまりの
大きなビルに唖然とする。凄い……。
『子会社もいくつか持っているけど
俺の働いているところは、本社だからね。
さぁ、中に入ろう。詳しい話は、歩きながら説明する」
そう言って車から降りる阿部さん。
「は、はい。」
私も慌てて車から降りた。
阿部さんは、秘書らしき女性に一声かけると
私の方を見てどうぞと案内してくれた。
中に入るとすれ違う社員達は、立ち止まり阿部さんに
頭を下げてきた。
それに対して気さくに応える阿部さん。
私は、その後ろを必死について行くのだが
こちらも注目されているみたいで恥ずかしくなってくる。
阿部さんって……一体何者なのだろうか?