恋愛と失恋の果てに。
ハッと思い慌てて立ち上がり挨拶をする。
「は、はじめまして。
尾野千奈美と言います。よろしくお願いします」
深々と頭を下げた。
危うく挨拶をするのを忘れるところだったわ。
そうしたらクスクスと笑う上のお姉さん。
「フフッ……こちらこそよろしくお願いしますね。
長女の希美です。
陸斗。お楽しみ中に悪いんだけど社長がお呼びよ?
千奈美さんも一緒にだそうよ!」
わ、私も!?
「俺が分かるけど……何で彼女まで?」
「あら。彼女は、元々あなたのお見合い相手よ?
だったらご挨拶ぐらいしないと失礼でしょう」
上のお姉さんがそう言ってくる。
確かにその通りだ。
私は、元々阿部さんとお見合いをすることになっていた。
結局あやふやのままになってしまったが
一度きちんと挨拶をするのが礼儀だろう。
「分かりました」
「えっ?いいの?
気乗りしなかったから断ってくれてもいいんだよ。
お見合いは、無かったことになったんだし」
心配そうに言ってくれる。
「いえ……せっかくですし。
一度も挨拶をしないのは、さすがに失礼ですし」
本当のところは、怖い。
大手のプロダクションの社長が、阿部さんの父親。
どんな凄い人か分からない上に病気のこともある。
発作を起こさないように気を付けなくちゃあ……
「いい心掛けね。どうぞ。
ご案内致します」
ニコッと笑顔で接してくれた。