恋愛と失恋の果てに。
「人の恋愛事情をとやかく言えないけど
上司として一言でも言ってやりたかったんだ。
君を苦しめた人だから……ちょっとでも」
「男らしいところを見せたかったんだけど……
あの人、本気で怖い顔をするからマジでビビったよ」
情けなそうに溜め息を吐く阿部さん。
あんなに火花が飛びそうなぐらいに
怖い雰囲気だったのに……阿部さんったら
課長にビビってたなんて
「フフっ……」
「あ、笑わないでよ!?千奈美さん。
俺、結構頑張ったんだよ?」
頬を赤らめながら真剣に言っている。
阿部さんは、不思議な人だ。
あんなに怖くて仕方がなかったのに
彼が居ると大したことなかったように思えてくる。
きっと彼が和ませようとしてくれるからだろう。
「ご、ごめんなさい……でも……フフっ……」
「笑いすぎだって……」
そう言う阿部さんも笑っていた。
するとドアがガチャと開いた。
あっ!?
「お前達……まだそこに居たのか?」
課長が私と阿部さんを見つけると眉を寄せて言ってきた。
ビクッとまた肩を震わせる。
しかし阿部さんは、ニコッと微笑みながら
「すみません。思わない話に盛り上がっちゃって
すぐに向かいます」
私の手を引いて歩き出した。